今、米国 Walmartなどの成功事例で注目されているのが「リテールメディア」です。顧客の購買データや店内行動データなどのファーストパーティデータを広告配信などに活用することで新たな収益を目指すこともできます。今回は、そんな注目の「リテールメディア」をエブリーがどう実現しようとしているのか、何ができるのか詳しくご紹介します。しかしながら、単体のソリューションでは成果として実感することが難しいのがリテールDXです。どうすればDXが進み、ロイヤルカスタマーを創出していけるのか、執行役員の鵜飼に聞きました。
執行役員 データソリューション本部長
鵜飼 勇人
2006年慶應義塾大学卒業後、トーマツ コンサルティング株式会社(現:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)に入社。2008年1月よりアクセンチュア株式会社に入社、金融業界向けのマーケティング事業に従事。2011年4月、グリー株式会社へ入社し、プラットフォームの事業戦略、グローバル展開を担う。2013年4月よりリブセンスに入社、キャリア事業部長として転職サイトなどの運営を主導。2017年7月、株式会社エブリーに入社、経営企画としてリテールソリューション事業の立ち上げに従事。2019年執行役員就任。
選ばれる店舗づくりに必要な1to1のコミュニケーションを実現する「リテールメディア」
ー今回、エブリーは「リテールメディア構想」を掲げ、データに基づいた販促の効果検証や、店舗運営の効率化、売上の最大化に向けたサポートに取り組んでいきます。まずは、事業背景やこれまでエブリーが展開してきたリテールソリューションについてお伺いできますか?
鵜飼:エブリーは2015年からレシピ動画メディア『DELISH KITCHEN』の運営をはじめ、2018年からはリテールソリューションの提供を開始しました。今まで店頭サイネージをはじめとした統合的なソリューション展開をしています
エブリーの店頭サイネージは、今まで折込チラシやPOPなど紙で行っていた店頭販促をデジタル化できることと、メディア面の提供だけでなく管理栄養士などプロが監修したレシピコンテンツがあることで陳列された生鮮食品等の訴求を食材そのものの魅力に加えてレシピや調理時のコツを通して売上UPに貢献できる点を評価していただき、導入が拡大してきました。
ーその上で今どんなことが求められているのでしょうか?「リテールメディア」によって解決できる課題について教えてください。
鵜飼:店舗ごとに商圏がある程度固まっている小売事業においては、その商圏の中でNo.1になるための店舗づくりが求められてきます。新しいお客様を獲得していくことももちろん大切ですが、商圏が限られている中では、LTVを上げていくこと、つまり今来店してくださっているお客様と1to1のコミュニケーションを図り、ロイヤルカスタマーになっていただくことが最も重要だと考えています。
サイネージは店頭のマスメディアとしての役割を果たしてきた一方で、小売の課題である店頭集客とロイヤルカスタマーの創出という点についてはまだ十分なアプローチができていないと思っています。また、店頭サイネージの効果についてもPI値を用いた購買効果測定から一段階レベルアップさせ視聴動向や立寄動向を可視化することで、訴求が興味関心度に影響を与えているか、レジへの導線やバスケット単価に寄与しているかについても分析していく必要があります。
そこで必要となるのがデータです。「リテールメディア」である店頭サイネージや小売アプリを通して、購買履歴や店内行動などお客様の許諾を得たデータを取得することで、1to1のコミュニケーションを実現していきます。
「リテールメディア」でデータに基づいた集客や販促施策が可能に
ー店頭集客とロイヤルカスタマーの創出に向けて、「リテールメディア」でどのように解決を図っていくのでしょうか?
鵜飼:大きく2つあります。1つ目は、すでに導入を進めている「店頭サイネージ」のさらなる拡大と進化です。もう1つは、自宅や店外での接点を創出する「小売アプリ」の開発・導入を推進していきます。
鵜飼:店頭サイネージは、導入店舗数・設置台数を増やしていくとともに、店内行動のデータ化に向けた取り組みに注力していきます。現状は販促施策を実施した場合、全体のPOSデータからこの施策を行った期間におけるPI値が施策期間前後・昨対・他店舗と比較してどう変化しているかなどから判断しています。ただし実際には店頭・店外で同時並行に複数施策が展開されていることも多く、単一施策の効果として特定するのが難しいため、次回の改善策がアイデアベースになってしまうこともしばしばです。
今後は、例えば店頭サイネージにAIカメラを設置することで、視聴した人がどれくらいいるのか視聴率を追うことができるようになります。また、ビーコンを設置すれば、実際に棚に立ち寄ったかやレジを通過したかなど、購買に至るまでの行動をデータ化することが可能です。店頭サイネージの視聴者層や視聴維持率、棚への立ち寄り、レジ通過などのデータを掛け合わせることで販促施策の購買寄与を可視化し、PDCAの質を高めることができるようになります。
ーもう1つ重要なのが、店内だけでなく家や店外での接点を創出する「小売アプリ」ですが、具体的なサービス提供イメージについてお伺いしたいです!
鵜飼:新たに小売が自分たちに必要な機能を簡易に取捨選択できる、小売アプリプラットフォームを提供していきます。例えばベースの機能として、既存の小売アプリにもあるようなニュースフィード、webチラシ、クーポン、ポイント管理、ID連携などを用意しつつ、独自性のある機能として『DELISH KITCHEN』のレシピ動画連携、既に提供開始しているネットスーパー(生鮮EC)機能、ビーコン連動による店外・店内通知機能、ターゲティング広告配信機能などを提供していきます。いずれの機能やコンテンツもユーザーの興味関心度や行動ログを取得することで、1to1にカスタマイズされた体験を届けられるアプリになります。
ーデータ閲覧ダッシュボードには、オンライン/オフライン/店内/店外さまざまなデータが集まることになりますね。
鵜飼:そうですね。店頭サイネージや小売アプリでそれぞれ提供できる価値はありますが、我々の目指しているところは、オンライン/オフライン/店内/店外を横断したデータ分析を通して統合的な販促支援を行っていくという点が大きなポイントになっています。
『DELISH KITCHEN』のファーストパーティーデータからは、料理の趣味嗜好やタイミングなど自宅・店外でのデータ、店頭サイネージや小売アプリからは、購買データや店内行動データなどを抽出し一元管理を可能にします。また外部データの接続や小売が保有している購買データの接続による顧客統合管理もできるようになりますそれらのデータをダッシュボードで統合的に可視化できることに加えて、横断した分析をサポートすることでコンテンツや訴求タイミング、訴求手段をそれぞれパーソナライズ化していくことができます。
ーコンテンツのパーソナライズ化は例えばどんなことができるのでしょうか?
鵜飼:例えば、以前は購入してなかったのに急に「ごま」の購入量が増えた方がいたとします。購買履歴だけではどう使っているのかわかりづらいですが、レシピ視聴動向からは「胡麻和え」のレシピにハマっていたりレパートリーが増えたと推測することができます。
そのデータをもとに、新たな胡麻和えレシピを訴求したり相性がピッタリの新たな調味料を訴求することができるようになります。よく事前にクーポンを使う方であれば、お買い物前にその商品のクーポンをその方だけに表示しても良いですし、そうでない方に対しては、来店した際に来店感謝のプレゼントのような形でアプリで通知したり、そういったキャンペーンが実施されていることを店頭サイネージで宣伝してリマインドに使っても良いと思います。
レシピ動画やクーポンなどのコンテンツだけでなく、どんなデバイスで届けるべきか、それをいつ届けるべきなのか、レシピを検索している時、来店した時、棚の前を通った時…などカスタマイズさせられるポイントはいくつもあるかと思います。届ける方法も進化させていきたいですね。
デジタル広告 第3の波、「リテールメディア」
ー米国では「リテールメディア」ですでにビジネスとして成功している小売企業もあり、注目されていますよね。小売にとってのメリットはどこにあるのでしょうか?
鵜飼:大きく2つあると思っています。1つはずっとお話してきた通り、横断的なデータ分析によって、1to1のコミュニケーションが実現できるようになり、お客様のロイヤル化(LTV向上)を目指していける点です。
もう1つは オンラインメディアとリテールメディアがつながることで、店舗もアプリもメディアとしての機能が拡充され、広告による新たな収益を創出できるようになる点です。米国で今注目されているのはこちらですね。
リテール領域のデータを活用した広告ビジネスがトレンドとなり、AmazonだけでなくWalmartもマネタイズに成功するなど、サーチメディア、ソーシャルメディアに続く第3の波として「リテールメディア」が急速に立ち上がっています。日本においても、コロナ禍による購買行動の変化や3rd Party Cookieの廃止など、広告やマーケティング、さらに販促のあり方が急速に変化しており、購買を起点にした「リテールメディア」の重要性は高まってきています。
リテールDX 陥りがちな負のループ
ー今さまざまな企業がリテールDXの領域でサービスを展開しています。しかしながら、日本での大きな成功事例はまだないのかなと思っているのですが、いかがですか?
鵜飼:生鮮ECサービスなどリテールDXの機能ごとにはサービスが存在していますが、単体のソリューションではなく、データを繋ぎ合わせ包括的なソリューションとして組み立てていかなければ成果として実感することが難しいのがリテールDXです。また小売の社内にITやデータに精通する専門人材がいないということも影響していると思います。何をやるにしても投資対効果を適切に判断することができず踏み込めないですよね。
また、こういった施策を「システム投資」と捉えてしまうと大きな予算が必要になります。すると小売側でも前述の観点から決裁しにくい、サービス提供者側もサービスが広がらずますます安価にしにくい構図に陥ってしまいます。。
サービス提供者側のマネタイズポイントをズラして小売とのメディア作りは投資規模を抑え、マネタイズは広告を原資とするなどの考慮が必要になるかと思います。またそうなると広告として魅力的なプラットフォームなのかどうか、例えば認知やROAS*などの期待効果に見合う出稿価格なのか、一小売にとどまらないリーチ規模が保てているか、など考慮することが増えていきます。総合的な観点を持って事業推進できるかということが今は求められているのかもしれません。
*Return On Advertising Spend=広告の費用対効果
ーなるほど。エブリーはマネタイズの軸を「DELISH KITCHEN」をはじめとするメディアで築き上げてきた広告事業においています。だからこそリテールメディア構築に向けてアクセルを踏んでいける、ということですね。
鵜飼:エブリーでは、現在も店頭サイネージで広告配信が可能な「ストアビジョン」を運営していて、将来的には小売アプリなどリテールメディアへの広告メニューも拡充予定です。デジタル広告の領域はエブリーの今までのアセットをフル活用できます。将来的にはリテールメディアによる広告収益もマネタイズの軸としていくことで、リテールメディアによる真のリテールDXを実現していきたいと思います。
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株式会社エブリー
データソリューション本部
リテールソリューションズ事業部
E-mail:ch-delishkitchen-rs@every.tv
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