カルチャー

女性が輝く社会を目指して、企業がやるべきこととは。アドバイザリーボードメンバーの吉村 泰典先生にご登壇いただきました!

2022.09.16

8月、慶應義塾大学 名誉教授の吉村泰典先生を講師としてお招きし、少子化と女性活躍について考える社内講演をオンライン・オフラインで同時開催いたしました。先日厚生労働省が発表した人口動態統計速報では、2022年上半期の出生数が38万4942人と前年同期と比べて5%少ないことが話題となりました。 吉村先生によると、超少子化社会の日本社会において重要な問題は生産年齢人口の減少であり、この局面を乗り越えるためには本当の意味で多様性を受容する社会への変貌が必要であるということです。民間企業であるエブリーができることは?

  • ​​吉村泰典先生
  • 慶應義塾大学医学部卒業。1983年から米国ペンシルバニア病院、米国ジョンズホプキンス大学勤務、1990年から杏林大学医学部産婦人科助教授を経て、1995年から慶應義塾大学医学部産婦人科教授に。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長、日本産科婦人科内視鏡学会理事長を歴任。現在、福島県立医科大学副学長を務める。

はじめに

エブリーは、社会に信頼されるメディアづくりを第一の使命と考え、コンテンツのチェックやフロー、ルールを外部の有識者とともに整備するなどのアドバイザリーボード活動を積極的に実施しています。8月、そのアドバイザリーボードメンバーの一人である慶應義塾大学 名誉教授の吉村泰典先生をお招きし、社内講演会を開催いたしました。テーマは「わが国の少子化を考えるー女性が輝き続ける社会を目指してー」。講演会はオフライン・オンライン上で同時開催し、当日多くのメンバーが参加しました。

講演では近年の人口減少、合計特殊出生率の低下とそれにともなう生産年齢人口割合の減少など深刻な状況に警鐘をならすとともに、女性活躍の重要性、そしてその実現方法として制度面だけでない意識のイノベーションの必要性についてお話いただきました。

少子化と生産年齢人口の減少

吉村:前年2021年の出生数は81万人で合計特殊出生率が1.30と6年連続で減少の一途を辿っています(*1)。日本の人口動態を歴史的にみても、2010年の1億2800万人をピークに、世界のどの国も未だ経験したことのないような急激な減少局面に入っています。

2050年には人口1億人を切るということが問題視されていますが、より重要なのは人口のバランス、構成比です。特に20歳から64歳と若者の世代。こういった生産年齢人口と若者の世代が極端に減ってくると、国内産業が空洞化し消費の減少に伴ってやがて経済力が低下していきます。この問題に対して、1989年の1.57ショック以来約30年の間、国としてもさまざまな少子化対策を実施してきましたが、未だ深刻な状況が続いています。

少子化の要因としては、下記の3つがよく挙げられています。「キャリア形成を望む女性が増え、未婚になり、そして晩婚・晩産になっていったから少子化になった」というのが一般的な論法であり、間違ってはいない訳です。

吉村:ただ、合計特殊出生率を夫婦に限定して見ると、実は2人弱はお子さんがいらっしゃいます(*2)。ところが全体で見ると合計出生率は1.3〜1.4人(*3)。これはどういうことか?日本は世界でも特殊で、結婚しないと子供を産めない状況にあるということです。日本の場合は98%が婚内子ですが、フランスなどでは50%以上が婚外子です(*4)。さまざまな社会的制約・背景があり、結婚しないと子供を産めない。要するに、結婚しないで子供を持つということに対するリスペクトが非常にない国であるということがお分かりいただけると思います。

こういった状況の中での女性の出産年齢を見ると、35歳以上の高齢の出産が非常に増えてきています(*5)。では、どうして女性は出産を先送りしてきたのか?いくつになっても出産は可能だと思い違いしていたということ。これは大きな間違いです。そしてキャリアをある程度作って、生活設計ができてから出産を考えようと思っている方、もしくは30歳前後で出産子育てしながらキャリアを積む自信がなかったという方もお見えになります。すなわち、「比較的若い時期に妊娠出産してもキャリア形成ができるという就業モデルが身近になかった」ということが問題なのかもしれません。

女性活躍がカギ

吉村:生産年齢人口が急激に減少する厳しい局面を乗り越えるために重要なのが、女性の活躍です。労働力の量的確保のため女性の労働率向上をさせるということは極めて大事ですが、それ以上に大切なことは労働の質向上に女性が役立つということです。労働生産性を上げるという観点で女性の視点でイノベーションを起こすこと、これが働き方改革にも繋がり女性活躍につながっていきます。女性の労働力率が5%上昇すると7兆円の付加価値の創出につながるとも言われます。

吉村:つまり「女性が社会進出して働くようになったから少子化が進んだ。だから女性は社会進出すべきでない」というのは大きな間違いであるということです。他の先進国を見ていただくと、労働力率が高いほど特殊出生率が高いといったデータがあります(*6)。

必要なのは意識のイノベーション

吉村:これまで少子化対策の条件として、次の2つがよく課題とされてきました。結婚出産子育ての経済的な不安を取り除くということと、若者の雇用形態を改善し公的支援を増やすこと。そして子育てしながら就労しやすい環境を作ること。制度としては少しずつ良くなっていますが、もっと大切なのは意識のイノベーションだと私は思うのです。

意識のイノベーションをするには3つの考えを変える必要があります。社会と企業と男性の意識です。生産年齢人口が減少したことにより、今企業と男性はずいぶん変わりつつあります。女性に対しても優しくなりましたし、男性でも育休を取る人も増えてきたりと、働き方改革によって意識改革が行えるようになってきています。ですが大きな問題はやはり、日本という社会の意識のイノベーションが全くできていないということだと思います。

吉村:ポストコロナにおいて出生率が改善した国と下がった国がありますが、日本は下がっています。これはなぜかというと、やはりジェンダー平等が進んでいるかいないかということが影響していると理解して良いかと思います。ジェンダー平等が進んだ国ほど出生率が改善しているというデータがございます。また、家庭の収入と少子化との関係において、家庭の収入が少ないほど出生率が低い傾向にあります。

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)による影響をなくす

民間企業における役職別の管理者の女性割合は少ないながらも増えてきています。昇進意欲も非常に増してきています。そんな中で問題なのは、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が組織の意思決定、採用・評価・昇進と言った人材マネジメントに非常に影響を与えていることです。つまり、ダイバーシティは推進されてきていますが、「ガラスの天井」を超えるマイノリティが増えていないということです。これは企業としてもリスクであり、個人の人間関係におけるパフォーマンスも低下させます。

吉村:多様性を受容できず、枠組みを変えることに抵抗のある「粘土層」の存在もあります。「粘土層」とは、「ワークライフバランスや女性の活躍は不要である」という考えがインプットされている人たちのことです。こういった層に対しては、まず問題を自覚させ、行動の変容を起こし、多様性とワークライフバランスを理解した状態にすることが必要です。そしてこの先に、無意識のレベルで継続・習慣化させる段階まで行かなくてはいけません。

また、日本特有の問題としては女性自身によるバイアスも存在します。「夫は外で働き妻は家庭を守るべきである」と考えているのは女性より男性の方が多いですが、日本の場合は海外に比べると女性自身でもそのように思っている方の割合が多く、およそ4割以上の女性がこの性別による役割の固定を肯定的に捉えています(*7)。そのため、私は女性自身の意識改革も極めて重要なのではないかと思っています。

吉村:女性のキャリアや成長を阻む要因としては、①職場環境等によって物理的に働きたくても働けない、②ガラスの天井やハラスメントなどの背景がありモチベーションが上がってこない、③家族や上司の理解がないといった状況があります。同じ仕事をしていても4分の3しか給料をもらえないといった賃金格差も大きな問題になっています(*8)。

企業にとって必要なこと

吉村:こうした中で、今企業において求められるのはESGという概念です。これまでは企業の業績、財務情報だけが投資の重要な判断材料でしたが、2006年に国連がESGの観点を考慮すべきであるとする投資の意思決定をする際のガイドラインを提唱したのを契機に、ESG投資が本格的に普及しました。財務情報だけでなく、環境や人権といった問題にどれだけ取り組んでいるかが企業価値につながり、持続可能な企業の成長戦略になるということです。2018年には世界の投資の約3分の1がこのESG投資となり(*9)、今後ますますこのESG投資の重要性は高まると考えられています。

ではなぜ女性の活躍が企業の成長にとって大切なのか?というと、やはり女性が活躍できるような職場から、女性の考えによるイノベーションの創出につながってくるからです。そしてそれが働き方改革につながり、生産性を向上していく。まさしくこれがESGインテグレーションです。

吉村:ダイバーシティ」という言葉が一般的になりましたが、これは公平性だけの問題ではなく、企業の成長と技術革新を促進するために必要な考え方です。企業の将来のリスクを低減し、新入社員の採用やリテンション対策といった人材の確保、人的資本への投資にもつながっていきます。このように、女性の活躍が企業の成長において非常に重要なファクターとなっているのです。

吉村:制度としては整ってきている中で、何より重要なのは多様性を認めるような社会に本当に変貌していないということです。女性活躍が少子化社会において必要であることは今回お話した通りですが、そのためには女性が健康力を生涯維持するということが極めて大事です。これをセクシャル・リプロダクティブ・ヘルスと言います。また、リプリダクティブ・ライツという言葉もありますが、これは女性が自分の人生の生き方を自分で決められる権利ということです。こうしたことが欧米においては確立していますが、我が国においては全く確立していないということが非常に大きな問題です。意識のイノベーションを起こさない限り、この少子化を乗り切ることはできないと私は思っています。

少子化は先進国共通の悩みです。少子化は社会をうつす鏡であり、政治や企業が子育て世代や家族を形成する若い世代の不安を解消することができなかった結果であると思っています。若い世代が心健やかに産み安心して子育てできるような社会を、そして子供を作りたいと思うような社会の形成を、国も企業も目指していかなければなりません。

女性にとって働きやすい社会は、男性も働きやすい社会

ーー講演後、メンバーからの質疑応答が行われました。

Q.貴重なお話ありがとうございました。日本は海外より婚内子の割合が圧倒的に多いということの背景にはどのような要因があると思われますか?諸外国との違いはどこにあるんでしょう。

吉村:非常に大きな問題で、我が国の間違った家族感・社会観ではないかと思います。やはり子供を産むということは、女性の権利だと思うんです。これをセクシャルリプロダクティブ・ヘルス/ライツというのですが、ヘルスは考えられるようになってきている一方で、リプロダクティブ・ライツという考え方は我が国ではまだほとんど根付いていないんですね。つまり、女性が自分の生き方を自分自身で決めるということができていない国なんです。例えば女性が結婚をしなくても子供を産みたいという時に、その希望が叶えられないような社会構造、風土になっています。

一人で子供を産んだ女性に対してリスペクトはあってもいいかもしれませんが、冷ややかな目線で見るという社会そのものが間違っているということです。さらには母子家庭で貧困が多いことも非常に大きな問題です。社会で子供を育てるという意識が無いことが大きな問題ではないかと思います。

Q.少子化社会に必要なのは意識のイノベーションであるというお話は非常に根深い問題であると痛感しました。そんな中多くのユーザーを抱え、サービスを提供する私たちのような民間企業が微力ながらできること、吉村先生が期待されていることとしてはどんなことがありますでしょうか。

吉村:企業の役割はとても大切で、特にESG課題に配慮し取り組む企業になることが重要です。これが従業員の健康を考えることにつながり、ひいては生産性の向上につながってきます。ESGの中でも重要なのがS(Social=社会)で、人権や人的資本に投資を行う企業であることが極めて大事になってくるだろうと思います。エブリーのような第三次産業の企業こそ、先進的企業として変革を行っていくことが大事なのではないでしょうか。

1番分かりやすいのは、例えば女性の健康を考えた上で女性が働きやすい職場を作ること。女性の健康は女性自身も知らないことが多く、男性はもっと知らない。女性が健康で働きやすい職場は男性にとっても圧倒的に働きやすい場所になります。このことをぜひご理解いただければと思います。

ーー最後に、社内アンケートから感想を抜粋します。

・吉村先生から出生率低下の原因をいくつかご教示いただいたが、どれも根本には多くの日本人が共通してもつ考え方や文化のようなものが原因であるように思えました。吉村先生も仰っていたように、意識改革以外にこの問題の解決策が思いつかないが、長い間続いてきた考え方を取り除くためには、やはり長い時間を要するだろうと思った。微力であっても良い方向に進むように協力していきたいと思います。

・少子化が深刻であるとは理解していたが、自分達でできることが少なく、他人事になっていました。女性の働きやすさを整備したり、リスペクトするなど、できることがあることを知れたことがよかったです。

・今までの少子化における自分自身の考え方が間違っていたことを知りました。諸外国の事例などを織り交ぜて頂いたおかげで日本という国内だけの情報で思考していたことに気付かされ、先入観を払拭し考えを新たにすることができました。

・前職は古い体質の大手だったこともあり、アンコンシャス・バイアスの問題はずっと感じていました。女性も男性も幸せな社会になるには、どうしていくべきかを考える良い時間になりました。

おわりに

少子化と女性の活躍の重要性について、また女性が人生の生き方を自身で決定する権利やアンコンシャスバイアスといった意識の改革について、メディア企業としてはもちろん一人一人が自分ごととして考えるきっかけになりました。

貴重なお話をありがとうございました!

 

  • 出典
  • *1「令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況 厚生労働省 結果の概要 合計特殊出生率」厚生労働省
  • *2 「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」国立社会保障・人口問題研究所
  • *3「人口動態統計」厚生労働省
  • *4「平成27年版厚生労働白書 – 人口減少社会を考える -」厚生労働省
  • *5 「母子保健の主なる統計」母子衛生研究会
  • *6  「先進国における女子労働力率(25-34歳)と出生率 (TFR)」国立社会保障・人口問題研究所、ILO(2008年)
  • *7 「 女性の活躍推進に関する世論調査」内閣府
  • *8 「令和2年賃金構造基本統計調査の概況」厚生労働省
  • *9 「Global sustainable investment review 2019」Global Sustainable Investment Alliance

 

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