ミスを“信頼”に変える仕組みづくり。エブリーCXの品質戦略

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こんにちは、エブリーでVP of CXを担当している作花です。

これまでの連載では、
第1回で「エブリーCXという組織の成り立ちと戦略
第2回で「管理栄養士によるCS施策と専門性」についてお伝えしてきました。

今回はその第3回として、私たちCXがなぜ「信頼できるサービス」を“設計する”必要があるのか、そしてそのためにどのようなリスクマネジメントの仕組みを築いているのかを、掘り下げていきたいと思います。



完璧を目指すのではなく、ミスと向き合える構造をつくること。
それが、私たちCXが「信頼されるサービス」のために選んだアプローチです。


セオリーだけでは守れない“信頼”がある

「リスクを防ぐ」と聞くと、多くの方はこう考えるかもしれません。
 「リスクは網羅的に洗い出し、優先度をつけ、事前に管理するものでは?」と。

それは、組織としてのリスクマネジメントにおいて間違いのない“正攻法”です。
 ですが私たちは、それだけでは信頼を支えきれない場面に、日々直面しています。

レシピや育児など生活に関わる情報発信において、人の感覚や文脈、社会の価値観が常に変化するからです。どんなに精緻なチェックリストをつくっても、時間が経てば通用しなくなるものもある。だからこそ、“変化に気づき、再定義し、対応する”という動的なリスク設計が必要だと考えています。

CXのリスク設計は、動的に“回す”もの

エブリーCXは、リスクを「静的なルールで管理する」のではなく、
“観察し、予測し、設計し、社内で共有する”というループで捉える設計思想を持っています。これはPDCAというよりも、OODAループ(Observe → Orient → Decide → Act)に近い考え方です。

①「気づく力」が、信頼の出発点

CXの仕事において最も価値があるのは、実はこの“気づき”の部分だと思っています。
世の中の動き、問い合わせやレビュー、社内からの相談、現場での違和感。CSやCXは常にサービスとユーザーの“間”にいて、ちょっとした兆しに気づく立場にあります。

たとえば、「youtubeコメントでいつもより意見が多い」「この表現をLPで使いたいが問題ないですか?」…その背後にある本質的な不安や使いにくさに耳を傾け、必要であれば一つひとつ記録し、関係部署と共有する。こうした“見えないミス”への感度こそが、私たちの価値だと考えています。

②ユーザーの不安を「先回り」する

見えてきた声を元に、次に起こり得る問題やリスクを先読みしていく。
このフェーズでは、CXが主体となって問いを立てることがとても重要です。

私たちはリスクマネジメント委員会内にある「コンテンツ品質分科会」を通じて、有識者アドバイザーの方々と適宜議論を行い、「今のこの状態、半年後にも通用するか?」「この表現は、誤解を生まないか?」といった問いを投げかけながら、見落とされがちなリスクを言語化しています。

半年に1度のアドバイザリーボードでは、より広い視点から事業全体の方向性と合わせて、リスクの解像度を上げていきます。

③知見を「誰でも判断できる形」に変える

ユーザーから得た気づきや、アドバイザーとの議論を元に、再発防止や迷いを減らす仕組みを整備しています。

  • たとえば:
    料理では、レシピチェック項目を300以上に体系化し誰が見ても同じ観点で判断できる状態にしたり、「料理を楽しむにあたって気をつけていただきたいこと」「冷蔵・冷凍のガイドライン」など、生活者目線の注意事項を明文化

  • クラウドファンディングにおける品質基準の策定

  • 法務と連携し、各種コンプライアンスマニュアルをベースに、よりわかりやすく理解できるよう事例を踏まえた勉強会の実施

ガイドラインはあくまで“支え”であって、ユーザーの体験に近い現場(CS/CX)こそがその意味を体現できていなければ意味がない。だからこそ、「自信を持って説明できる状態」を支える設計を続けています。

④判断基準を組織全体で「揃える」

私たちは、判断基準やリスクの捉え方を個人やチームに留めず、組織全体で共有・統一することを重視しています。

その一環として、「ヒヤリ・ハット報告」の文化づくりにも力を入れており、厚生労働省と病院で行われている「医療に誤りがあったが、患者に実施する前に発見された事例」や「誤った医療が実施されたが、患者への影響が認められなかった事例」などを含む、「ヒヤリ・ハット事例」を収集・分析する活動を参考としています。

これは、事故やミスが起きる“前に止めた”ケースを報告・共有し、未然防止につなげるという文化を育てる仕組みです。

エブリーでは大学病院でリスクマネジメント経験のあるアドバイザーの意見を参考に、「ひやっとした/ハッとした」瞬間を記録・共有する制度を導入しました。

  • 報告しやすいフォーマットでの提出ルール

  • 定例ミーティングやslackでの共有

  • 重要な事例は再発防止策として制度化

こうした文化により、「ミス=悪」とせず、兆しを捉え、組織で止めるという前向きな行動が評価される土壌が育ちつつあります。これはまさに、リスクに対して受動的ではなく、能動的に備える姿勢を全社で育てていく取り組みだと考えています。

※勉強会や啓発を通じてヒヤリハットの重要性を定期的に説明している

また、こうした報告や気づきを一部のチームに閉じず、全社に波及させていくことも私たちの重要な役割です。

「この考え方で大丈夫か?」「他の部署にも伝えるべきでは?」と感じたときには、事例を社内共有したり、講演会や勉強会を実施するなど、組織全体のリスク感度を引き上げる仕組みを整えています。

社外の有識者を招いた講演会では、食文化や歴史、食品衛生、情報発信倫理、心理的安全性など多様な視点からの知見をインストールする機会として提供。

リスクを“チームのもの”から“会社のもの”へと翻訳していくことも、エブリーCXの大きな役割の一つです。

信頼とは、“起きなかったこと”の積み重ね

ミスは、誰にでも起こり得ます。
もしサービス上でミスが「ゼロ」だとすれば、それは単に気づけていないか、隠されているだけかもしれません。

大切なのは、ミスを前提としたうえで、それにどう向き合うか。
正直に受け止め、チームで共有し、再発を防ぐための仕組みに変えること。
私たちはそれを、毎日の業務の中で積み重ねてきました。

まとめ:変化し続ける社会に、“動的な信頼設計”を

信頼されるサービスとは、「問題が起きなかった結果」ではなく、「問題が起きないように備え続けてきた過程」によって生まれるものだと思っています。

エブリーのCXは、静的なルールだけでは捉えきれない日々の変化に、気づき、問い、仕組みに変えていくというスタンスで向き合っています。

まだ未熟な部分も多々ありますが、変化する社会で信頼を築くために私たちは、これからも動的なリスク設計で支えていきます。

次回は現状のCX/CS組織におけるAI活用について触れていきたいと思います。



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