
こんにちは、エブリーでVP of CXを担当している作花(サクカ)です。前回の記事では、エブリーのCXがどのようにして組織の価値を高めてきたか、全体的な戦略についてお伝えしました。今回は、エブリーの主力サービス「デリッシュキッチン」のCXチームで活躍する管理栄養士3名に、具体的なカスタマーサポート施策とその強みについて、実際のエピソードを交えてお話を聞きました。
▼インタビュアー:
作花 慎一
VP of Customer Experience
TIMELINEカンパニー サービスグロース部
カスタマーエクスペリエンスグループマネージャー
2007年より株式会社Bellsystem24にて、大手ECのテクニカルサポートやWeb広告審査のSV、BPOなどを経験。2011年にグリーへ入社し、ゲームタイトルCSを担当後、品質管理部門を立ち上げアプリ審査、企画審査を統括。2017年、エブリーに入社し、リスクマネジメント委員会、デリッシュキッチンのカスタマーエクスペリエンスを主導。
2022年から新たにTIMELINEカンパニーのカスタマーエクスペリエンス(CX)の立ち上げに従事。同年7月、CX ヴァイスプレジデント職に就任。
▼インタビュイー:
左から工藤、リーダー 森、マネージャー 白澤
CXの定量的な成果
作花: まず、デリッシュキッチンのカスタマーサポートの状況を定量的に教えていただけますか?
白澤: はい、現在のお客さま対応満足度は5段階で評価いただいており、そのうち上位2つを選択した割合が直近半年で96.6%を記録しています。また、お問い合わせ数の削減にも力を入れており、2024年度は2020年比で73%の削減を実現しています。
作花:それは一般論としてもかなり良い数字のように見えます。要因が気になりますが、実際にはどのようなことが影響したと思いますか?
白澤: 主な要因は大きく4つあると考えています。
成功を支える具体的な取り組み
①専門性を活かした丁寧な対応
白澤:まず一つ目は、「専門性を活かした丁寧な対応」です。管理栄養士の資格を持つ3名で対応することで、問い合わせの背景まで深く理解した対応を徹底しています。
森: デリッシュキッチンのお問い合わせの多くは、55,000本以上ある動画レシピを見たお客さまから調理の不明点等のお問い合わせです。
例えば「蒸しパンを半量で作りたい」との問い合わせに対して
・蒸しパンの半量の作り方
・分量変更で余った溶き卵半量の使い道
・保存の際の注意事項
などプラスの情報も併せて案内したことで非常に喜ばれました。
工藤:また「お菓子のレシピでは膨らまない、固まらない」「おかずのレシピでは中に火が通ってない、焦げてしまった」など上手に作れなかった場合に問い合わせをいただきますが
・食材の状態や材料の測り方
・調理家電の特徴
・調理のコツ
など様々な可能性でお答えし、補足できる内容はポイント欄に追記するなどレシピを更新しています。
次回お作りいただく際に少しでも参考にしていただけるようご案内をし、実際に「リベンジしたらうまくできました!」などといった嬉しいコメントもいただいています。
マネージャー 白澤、工藤
②レシピ情報の充実
白澤:二つ目は「レシピ情報の充実」だと思います。レシピを制作しているフードスタイリストと連携しレシピ改善やQ&Aの充実を図り、レビュー機能も導入してお客さまと一緒に質を高めています。
工藤: 誰でも簡単に作れるようレシピを制作しており、レシピで表現しきれないものについてはレシピごとのQ&Aの充実を図っています。例えば、ご家庭の炊飯器のサイズはさまざまなため、5.5合炊きの炊き込みご飯レシピへ「3合炊きの場合の分量を教えて」という問い合わせが多くありました。そこで3合炊き炊飯器用のレシピも作り、それぞれ相互リンクをつけることで、どの炊飯器レシピに辿り着いてもご自身の炊飯器の大きさにあったレシピを探せるようになり、問い合わせがほぼ無くなった実績があります。
参考:https://delishkitchen.tv/recipes/212229427113755028
森:ただ人が作っていることもあり、想定外のことやミスなども発生してしまいます。そう言ったものも発生時点で情報を追加したり時には根本から見直して再撮影を実施することもあります。実際「ローストビーフ丼」というレシピでは安全性重視で作成したため、再現性が難しく低レビューが散見されました。そこで安全性は担保しつつより作りやすくなるよう何度も話し合いや試行錯誤した末、現在ではレビュースコアがかなり改善されつつあります。
参考:https://delishkitchen.tv/recipes/153703045450957203/reviews
こういった地道な改善を継続的に実施し続けてきていることがお問い合わせを大きく減らすことへ繋がっていて、現在では強みになっていると思っています。
リーダー 森
③プロアクティブなリスク管理
白澤:三つ目は「プロアクティブなリスク管理」です。新企画の段階から安全性や正確性を担保するために法律やレピュテーションリスクを外部専門家と共に細かく確認しています。
工藤: 「作り置きレシピ」という人気の調理法についてのエピソードですが、デリッシュキッチンでも多くレシピを作っています。その際に調理法、食材、保管方法などのリスクを網羅的に洗い出し、制作ルールをフードスタイリストやアドバイザーと連携して作成し徹底を図るとともに、利用するお客さまへも注意点として何を伝えるべきか検討した上で料理に望んでもらえるよう設計しました。
森:また、作り置き以外のレシピについても、日持ちに関する質問があった場合は、冷蔵保存・冷凍保存・解凍方法を合わせて返答しています。書籍や検証をもとに、各食材ごとの保存日数の一覧表を作成し、対応者によって回答内容に差異が生じないように徹底しています。
事前にリスクを洗い出すことで、リリース後のトラブルを未然に防ぎ、お問い合わせをせずに安心してご利用いただけるよう努めています。
※参考:「料理を楽しむにあたり、気をつけていただきたいこと」
マネージャー 白澤
④社内へのユーザーの声の浸透
白澤:最後に、「社内へのユーザーの声の浸透」です。SNSやレビューの声をSlackのcanvas機能でリアルタイムに共有したり、社内フリースペースに掲示し具体的な改善活動につなげています。
森:加えて、ユーザーのリアルな声を動画で社員に届ける『every voice』施策(ユーザーインタビュー企画)もスタートしました。
これはサービスを利用したお客さまに社内に来ていただき、インタビューを実施し動画撮影をさせてもらいます。この動画を編集して社員全員に届けることを実施しています。
工藤:社内からも積極的にユーザーの声を活かそうという意識が強まったり、「全員が定期的に目を通すべき取り組み」「自身の仕事に誇りを持つことができた」と言った声が生まれてきています。
白澤:実際にオフラインでお会いして、「顔」と「声」で想いを受け取る体験は、やはり特別です。その場の空気感や表情、言葉の裏にある背景を感じ取ることで、より深くお客さまの声に向き合うことができます。自分たちの仕事が、誰に・何を届けているのかが実感でき、日々の業務の先に“ユーザーの存在”があることに改めて気づかされる。それは誇りややりがいにつながり、チーム全体が自然と「お客さま目線」を持つことにもつながります。中長期的には、そうした姿勢がサービスの質を高め、ファンを生み出す原動力になると信じています。
リーダー 森、マネージャー 白澤、工藤
好循環を生む少人数精鋭体制
作花:これらの施策を徹底することでお問い合わせが減り、対応の質も上がったということですね。
白澤: はい、その通りです。問い合わせ数が減ったことで、一件一件のお問い合わせに対して十分な時間とリソースを割くことができるようになりました。結果として質が高まり、さらに問い合わせが減るという好循環を作れています。
まとめ
作花: 改めまして、デリッシュキッチンCXの強みを改めて教えてください。
白澤:一見すごく当たり前のように聞こえるかもしれませんが、私たちが一番大切にしているのは、毎日届くお問い合わせ一つひとつに、専門性と熱量をもってどれだけ真摯に向き合えるか、ということです。
1件の声の背景には、同じような体験をしながらも声を上げていない方がたくさんいる。だからこそ、どんな小さな声にも「何が起きていたんだろう?」と丁寧に、時に粘り強く考えることを欠かしません。
「お客さまがこうしてくれたら嬉しいよね」という感覚をかたちにするには、実際は地道なトライアンドエラーの繰り返しが必要です。それでも毎日ぶれずにやりきれるように、オペレーションや仕組みも整えてきました。
継続できる仕組みと、向き合い続ける姿勢。そのどちらも欠かさず積み上げてきたことが、私たちCXの強みだと思っています。
作花:具体的なお話をありがとうございました。次回は「信頼できるサービス」を目指した具体的なCXの取り組みを詳しくご紹介します。
