AI/LLMでtoC向けサービスはどう変わるのか?『DELISH KITCHEN』は、「レシピ動画アプリ」から「AI料理アシスタント」へ
レシピ動画サービス月間利用者数国内 No.1*の『DELISH KITCHEN』。先日から「デリッシュAI」のベータ提供を始めました。
AI/LLMによって、toC向けサービスの在り方、プロダクトの作り方が目まぐるしく変化していくように感じています。VP of Productとして日々感じていることをまとめてみました。
* data.ai・ahrefs調べ(対象期間:2024/6/1~2024/6/30)。レシピ動画の掲載を主目的とするAPP+WEBサービスの月間利用者数を調査。
堀田 敏史
執行役員 VP of Product
2011年名古屋工業大学大学院を修了後、グリー株式会社に入社。エンジニアとしてソーシャルゲームの企画開発、新規事業領域で介護施設メディアの開発に従事。起業、フリーランスを経て2016年09月、株式会社エブリーに入社。2021年07月からはDELISH KITCHENカンパニー サービスグロース部 部長として、事業拡大を牽引。2023年07月 VP of Product、執行役員、MAMADAYS(現 トモニテ)カンパニーサービスグロース部部長に就任。
AI/LLMを活用したtoCサービスの現在と未来
2024年も大規模言語モデル(LLM)の技術革新は加速し、モデルの精度向上と合わせて、軽量化、低コスト化が進みました。 OpenAIの「GPT-4o mini」、Anthropicの「Claude 3.5 Haiku」、Googleの「Gemini 1.5 Flash」など、軽量かつ高性能なモデルが登場し、今も数ヶ月ごとにアップデートし続けています。
軽量モデルの普及に伴って、LLMの利用コストは削減され、モデルの精度や処理速度も改善してきたことと、マルチモーダル化、日本語の精度向上などにより、toC向けプロダクト、モバイルアプリでの活用も現実的になってきました。
米国の大手テック企業(Big Tech)によるLLMへの投資は加速しており、AWS、GCPなどのクラウドインフラの時に起こったことと重なり、今後もLLMの精度向上と合わせて低コスト化が進んでいくのは確実だと思っています。逆にいえば、それだけAI/LLMの技術革新によるビジネスインパクトは今後さらに大きくなっていくということかと思います。
また、プロダクトにもさらに浸透し、利用するのは当たり前となる中で、単に今のサービス機能に活用していくだけでなく、体験自体をAIを前提として新らたに設計していくこと、パーソナライゼーションからプロダクタイゼイションのフェーズに移ってきたなと感じます。
出典: The publisher AI adoption model
その際には、ユーザーがそのアプリに求める本質的価値にフォーカスして「ユーザーが解決したい課題」や「達成したいゴール」を踏まえ、既存の解決策にとらわれず、根本的な問題をゼロベースで捉え直すこと、第一原理思考(First Principles)の考え方が大切になってくるのではと思っています。
例えば、DELISH KITCHENであれば、何を作るかレシピを探したい人は、キーワードを入力して検索し、検索結果に並んだレシピから作りたいものを見つけることをしていたが、それはそういうUXしか提供していなかっただけで、ユーザー課題としては「作りたいレシピが見つかること」が大事なので、検索しなくてもその人にあったレシピをAIが提案してくれる、みたいなUXの方がより素早くその人にあったレシピが見つかる、といった形です。
「レシピ動画アプリ」から「AI料理アシスタント」へ
これまでのDELISH KITCHENは、「レシピ動画アプリ」として機能ごとにユーザーの課題に対応してきましたが、これからは「AI料理アシスタント」として、あなただけの管理栄養士がスマホにいるような体験に大きくアップデートしていくことで、より「作りたい!が見つかる」状態にしていけたらと思っています。
具体的には、今までレシピ検討の段階ではレシピ提案、検索の機能を提案したり、買い物のシーンではユーザーが近くのスーパーのチラシ情報を取得できるようにしたり、料理中、食事後の健康管理もそれぞれのシーンで、ユーザーが機能を探し、使いこなす必要がありました。今後は、「今日は暑いからさっぱりしたレシピで」「近くのスーパーの今日のチラシは?」などAIに話しかけるだけで最適な機能を提供できるような状態を目指しています。
AIに話しかけるためのプロンプトを考えること自体も、今日何作ろうかきっかけがない方にとっては難しいこともあるので、AIからその人にあった決める軸を提案することからサポートしていけたらと考えています。
LLMもモデル自体は汎用化していく中において、プロダクトの競争優位性を高めていくためには、①データの質・専門性、②データの量、③ユーザー体験(UX)の強化、が大事になってきています。
DELISH KITCHENであれば、5万本以上の全レシピが管理栄養士監修で、レシピに関わる食材、分量、栄養素などのデータも正規化されて保持していますし、サービスとしてもAPP+WEBのアクティブユーザー数は約2800万人、SNSファン数は5媒体合計で810万人以上が使うメディアとして何を検索したか何を食べたかなど、食に関わる蓄積した膨大なデータがあります。さらに、オンライン上だけでなくオフラインの購買を含めたデータへも拡大していることは唯一無二で、AIをプロダクト実装していく上でも提供できる価値が広がるのではと考えています。
※1)data.ai調べ(App Store「フード&ドリンク」カテゴリーにおける累計評価数1万5000件以上のiOSアプリの平均評価値〔各リリース日~2022/02〕)
※2)data.ai・ahrefs調べ(対象期間:2024/6/1~2024/6/30)。レシピ動画の掲載を主目的とするサービスの月間利用者数を調査。APP、WEBそれぞれの利用者数の合計値がNo.1であることを意味。
※3)「SNS」=Instagram、Facebook、YouTube、X、TikTok。自社調べ(2024/7/19時点)
※4)株式会社エブリー調べ(アプリ上の公開本数、2022/2/24時点)
※5)「サイネージ」=小売店舗に設置されたデジタルサイネージ。「広告」=メーカー商品を広告するレシピ動画。自社調べ(2021/1/1~2021/12/31)
現在の『DELISH KITCHEN』での取り組み
エブリーでも生成AIやLLMについては早くから取り組み始めており、実際に様々な部門で業務面やプロダクト面での活用が広がってきています。技術的な話についてはエンジニアブログでも発信をしているので、ぜひ見てみてください。
- RAGでOpenAI APIのStructured Outputsを使い倒す
- 生成AIを利用したLP実装の自動生成に挑戦してみた
- 社内ナレッジ活用のためのRAG基盤のPoCを行いました
- Amazon BedrockのAdvanced parsing optionsの挙動を確認する
- レシピ動画からサムネイル画像を自動抽出するAIシステムを作りました
- Open Interpreterの実装を深掘り
- ビジネスサイドにChatGPTの利用を習慣づけられるといいなーと思ってる話
また、そこで得た知見を生かしながら、DELISH KITCHENのアプリにおいては、今回生成AI/LLMを活用した「デリッシュAI」をベータ版として一部ユーザーから提供し始めています。
DELISH KITCHENが向き合うユーザーは、日々今日のレシピ・献立をどうしようかと悩まれている方が多く、レシピを決めるきっかけ、レシピ決めの軸も様々です。
例えば、「冷蔵庫に卵が余ってるから、オムライスにした」「子供が食べたいと言ったから、親子丼にした」「スーパーで新鮮なアジがあったので、アジフライにした」「昨日は魚を食べたので、肉料理で豚丼にした」など何かしらきっかけがあり、そこから作るレシピを決めていることもあれば、そもそも何にしようか決め手自体がない中で、「アプリで美味しそうなメニュー見て」「SNSで流れてきたレシピをみて簡単そうだったから」などによって作るレシピを決められることもあります。
レシピ決めの軸も「短時間で調理ができるから」「材料費がやすく済むから」「栄養バランスが取れてるか」など様々で、軸も複数あったりします。
そのような状況の中で、DELISH KITCHENでは 「作りたい!が見つかる」をサービスのコンセプトとして、今までおすすめレシピの提案、レシピ検索、献立提案など各機能を提供してきました。一方、ユーザーひとりひとりの多様なニーズに合わせたレシピを提案していくには既存機能でのサポートだけでは難しさもある中で、AIによる料理アシスタントとして「デリッシュAI」を提供し始めています。
実際に提供を開始してみて、自然な言葉でレシピを探せるからこそ、通常の検索では中々補足できないユーザーの検索意図もデータとして取れてきています。
例えば、「うどんを使った食欲がない時の料理教えて」という質問があったりするのですが、通常検索だと「うどん レシピ」のように検索することが多いと思います。対して、このユーザーは「食欲がないから」うどんのレシピを探してるんだなと。食欲がないのであれば、うどんのレシピだけでなく、おかゆなどのレシピも本来は提案した方がそのユーザーにとっては良いのではないか、といったことが補足できるようになります。
こういったユーザーの検索背景を蓄積していくことは、AIの更なる精度向上に加え、DELISH KITCHENが向き合うメーカー、小売の方へのマーケティング支援にも役立てられる可能性もあるのではと考えています。
次のスタンダードを一緒に作っていきましょう!
まだまだAIのプロダクト実装に関しての取り組みは始まったばかりですが、これからどんどん加速していくので、一緒にtoC向け大規模プロダクトでAIを使った新しいユーザー体験、ユーザー価値の創造にチャレンジしたい方、またそのデータを活用してtoBも含めて新しいソリューションを生み出していくことに興味がある方は、ぜひ一緒にやれたら嬉しいなと思います。
2000年代にインターネットが発展してWebサービスが普及したように、2010年代にはスマートデバイスが登場してアプリのエコシステムができたように、新しいテクノロジーの登場によって、必ずその次の時代に当たり前になるようなプロダクト、サービスが生まれてきています。AI/LLMは同じくらいインパクトのある技術革新だと思うので、一緒に次のスタンダードになるようなサービスを作っていきましょう!