リテールメディアで「新しい未来の買い物体験」を。20兆円マーケットの変革に挑む

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エブリーは、2018年から食品スーパー向けにストアDXのソリューション提供を開始し、『DELISH KITCHEN』のレシピ動画の配信が可能な店頭サイネージを中心にサービスを拡大。2023年には、小売業向けに統合ソリューションを提供する『retail HUB(リテールハブ)』をスタートさせました。エブリーが取り組む次世代のメディア構想と社会を変えるようなチャレンジについて、データソリューション本部長の鵜飼に話を聞きました。

鵜飼 勇人
執行役員 データソリューション本部長
2006年慶應義塾大学卒業後、トーマツ コンサルティング株式会社(現:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)に入社。2008年1月よりアクセンチュア株式会社に入社、金融業界向けのマーケティング事業に従事。2011年4月、グリー株式会社へ入社し、プラットフォームの事業戦略、グローバル展開を担う。2013年4月よりリブセンスに入社、キャリア事業部長として転職サイトなどの運営を主導。2017年7月、株式会社エブリーに入社、経営企画としてリテールソリューション事業の立ち上げに従事。2019年執行役員就任。

 食品小売マーケットのデジタルシフトで、買い物体験をもっと新しく楽しいものに

ー『DELISH KITCHEN』のリテールハブ事業部のミッションについて教えてください。

鵜飼:20兆円規模の食品小売マーケットのデジタルシフトを加速させ、日本の小売市場にフィットした「リテールメディア」を構築してマーケティングの構造と生活者の体験を変革させたいと考えています。

私たちが食品をスーパーマーケットで買い物をする行動は、戦後、アメリカからスーパーマーケット文化が上陸して以来、今日までずっと変わらない消費体験のひとつです。毎日店舗に行ってから何を買うか決めて、店舗で商品を購入している方々が多いのではないでしょうか。

一方で私たちのライフスタイルは、コロナ以降の価値観の変化もあり、日常生活はデジタル化が進み、商品購入や情報収集の手段は多様化してきています。そうした中で『DELISH KITCHEN』は食に関連する分野でテクノロジーを使って様々な問題解決を行ってきました。いま私たちは、デジタルの力とデータの活用で、スーパーマーケットでの買い物体験をもっと新しく楽しいものにしたいと考えています。その実現には「リテールメディア」の構築が不可欠です。

「リテールメディア」が実現すると、ユーザーにはデジタルとリアルの連動でパーソナライズな情報を届け、楽しく利便性の高い買い物体験を作り出すことができます。また業界に対しては、店頭で購買促進するための販促活動と、商品を広く認知させるための広告活動の連携を促進させ、小売のビジネスモデルを大きく変えていくことができます。

私たちはそのような社会の構造を変え、まだ誰も解決できていない産業の改革にチャレンジしています。変われば私たちの日常は今とは全く違ったライフスタイルになり、業界にもマーケティングの新しい風を吹き込むことができる。日本のすべての買い物体験が変わるには10年はかかるような大きな取り組みです。誰でも挑戦できるビジネスではないからこそ、私たちがリーダーシップをとって10年かけてでもやる価値があると思っています。

今、最も期待されるデジタル広告「リテールメディア」とは

ー米国では「リテールメディア」ですでにビジネスとして成功している小売企業もあり、注目されていますよね。「リテールメディア」について詳しく教えてください!

鵜飼:「リテールメディア」とは、「小売が提供する広告媒体」です。消費者に直接接点を持つことができ、しかも比較的購買に近いタイミングにアプローチできるため、広告業界の第3の波として期待されています。

米国では2017年頃からリテール領域のデータも活用した広告ビジネスがトレンドとなり、AmazonだけでなくWalmartもマネタイズに成功するなど、サーチメディア、ソーシャルメディアに続き、リテールメディアが急速に立ち上がっています。その他にも、米国食品宅配サービスのInstacartは小売業がECサイトやアプリを広告メディア化して収入を得られるサービスをリリースするなど、消費財メーカーと小売店をつなぐリテールメディア化の実現を着実に進めています。

鵜飼:リテールメディアは、小売がもつ購買データをもとに競合との差別化を実施したり効果証明ができたりなど、パーソナライズ精度が高いマーケティングの実現が期待されています。またリテールメディアを通して、オウンドメディアを含むオンラインメディアと店頭とがつながると、今後は店舗もアプリも“広告メディア”としての機能を果たすようになり、新たな広告・販促メニューを生み出すことができます。

日本においても、コロナ禍による購買行動の変化や3rd Party Cookieの廃止(※)など、広告やマーケティング、さらに販促のあり方が急速に変化しており、購買を起点にしたリテールメディアの重要性が高まってきています。
実際にリテールメディアの実現に向け、コンビニエンスストアやドラックストアのような店舗数が多くリーチ規模が大きい小売業では、自分たちで店頭のメディア化に積極的に取り組んでいます。位置情報を集めている会社や広告代理店もメディアの立場でリテールメディア部門を立ち上げてきています。

(※)3rd Party Cookieはリターゲティング広告や顧客分析に広く用いられているCookieだが、個人情報保護の観点から規制が強まり、大手ブラウザでは順次提供を廃止している。

ーしかしながら、まだ日本での成功事例がないように思いますが、それはなぜだと思われますか?

鵜飼:ただ米国において成功している事例を、そのまま日本の市場に当てはめられるかというとそうではありません。

米国の大型食品スーパー(ハイパーマーケット)業界は大手4社で寡占されています。その買い物習慣は、商圏が広いので車で店舗に向かい、面積がかなり大きい店舗で多品目をまとめて購入し、一回で購入する量が多く買い物の頻度が少ないのが特徴です。いつ来ても同じように商品を購入でき、購買体験も平均化しています。

一方で、日本は徒歩圏内にスーパーがあって頻繁に買い物をします。商圏が狭く競合が隣接しているので、特売企画や陳列変更などで毎日変化があるように工夫し、ローカライズされた品揃えや細やかなサービスで差別化に取り組んできました。

このような日本人の買い物習慣を前提にすると、小売は「どこで買っても同じ」という買い物体験の均質化から脱却することが重要で、それは品揃えの差別化だけでなく、提案力の強化による消費者のファン化(LTV)が必要だと考えます。つまり、「自分のことをわかってくれているスーパーで買い物をしたい」と感じていただく購買体験を提供し、特定の店舗を選んで買い物に出かける状況を作り出していきたい訳です。そのためには行動データと購買データを結びつけてパーソナライズ化したサービスを提供できるリテールメディアを構築していく必要があります。

『DELISH KITCHEN』のアセットを生かし、他社にはできない小売ソリューションを展開

ー日本の生活習慣に沿った独自の「リテールメディア」を構築していくことが必要ということですよね。そうした状況に対して、エブリーではどのようにアプローチしてきたのでしょうか?

鵜飼:「DELISH KITCHEN」の行動データと小売の購買データを結びつけて消費者の体験を向上させようと考えた時に、まずは小売事業者の課題をデジタルで解決していく必要があり、最初に私たちは店頭で「デジタルサイネージ」を開始しました。エブリーの店頭サイネージは、今まで折込チラシやPOPなど紙で行っていた店頭販促をDX化でき、業務効率化と発信力強化の支援ができます。またハード面だけでなく、管理栄養士などプロが監修したレシピコンテンツがあることで食材そのものの魅力や調理時のヒントの提供で売上UPに貢献できる点を評価していただき、導入が拡大していきました。

一方で「デジタルサイネージ」は店内のマスメディアのようなもので、視聴者の購買行動をつぶさに追える媒体ではありません。そこで、購買データと行動データを結びつけできる「ネットスーパー」や、お客様との関係構築(CRM)をサポートする「小売アプリ」という新たなソリューションへ事業拡大させています。ソフトウェアの会社がハードウェアに取り組むということはあまりないと思います。課題を解決するためにサイネージ運用をしたりECシステムを開発したりして様々な領域にどんどん広げていくことに躊躇しない。これがエブリーのスタイルの特徴だと思っています。

ーそうした複数のプロダクトの提供が本格的にはじまり、現在は「retail HUB」という名称でサービスを展開していますよね。

鵜飼:はい。昨年、統合的にサービス展開することができるようになったため、名称を改めました。「retail HUB」では、サイネージを用いた店頭販促のデジタル化を推進する「ストアDX」、店舗オペレーションや配達管理の支援も行う「ネットスーパー」、アプリを導入から運用まで支援する「小売アプリ」の3つのカテゴリーを提供しています。

鵜飼:「デジタルサイネージ」はすでに2,300店舗以上に7,000台以上を導入していますし、「ネットスーパー」のシステムは日本全国で約20社に提供しており、「小売アプリ」の導入も進んでいます。

私たちが注力しているのは、プロダクトの開発だけでなく、“より深く顧客体験を形作ること”への支援です。具体的には、「小売アプリ」はアプリの開発に加えて顧客管理データベースの構築や運営も一緒に提案しています。また「ネットスーパー」はシステム導入だけでなく、運用面も一緒に伴走してサポートしています。例えばネットスーパーに即した品揃えの設計、商品管理、ピックパック等のオペレーション、配送の効率化など、あらゆる課題の解決をサポートし、事業拡大に導くことを目指しています。

唯一無二の強みをいかし、新しいマーケティングと買い物体験の未来を切り開く

ー日本においても「リテールメディア」の実現に動いている企業はたくさんあるとのことでしたが、その中で『retail HUB』だからこその強みはどこにあると考えていらっしゃいますか?

鵜飼:「コンテンツ」「ユーザーデータ」「卸売業連携」という3つのアセットが揃っている企業は他にはないと思っています。

『DELISH KITCHEN』はレシピ動画メディアであり、そのレシピを店頭サイネージで放映するコンテンツとして、またネットスーパーでの生鮮食品を購入してもらうフックとして活用することができます。今まで制作した管理栄養士が監修したコンテンツは5万本を超えますが、これは他社が簡単に追随できるものではないと思います。

また、『DELISH KITCHEN』の3500万人を超えるユーザー規模があるからこそ、マーケティングに有用な行動データを収集することができます。この行動データには、【購買前】の興味関心・嗜好データと【購買後】の調理・満足度データが含まれています。これを小売のもつ購買データと組み合わせると食卓にまつわる一通りのデータが繋がり、消費者ごとの食生活を浮かび上がらせることができます。こうしたコンテンツとデータの基盤があることが私たちのコアです。

そこにさらなる強みになっているのは、食品卸との連携ですね。エブリーは、小売業の販促的アプローチと広告代理店のメディア的アプローチのどちらも兼ね備えてビジネスを拡大してきました。自分たちに足りない部分については食品卸売業との資本提携や業務提携を行っています。今ではエブリーとともにリテールメディアを推進している食品卸売上シェアは60%を超えました。伊藤忠食品をはじめ、加藤産業や旭食品など多くの企業から期待いただき、業界全体で「リテールメディア」の構築に取り組んでいます。


ー今後「retail HUB」としてどのような価値を提供していけると考えていますか?

鵜飼:まずは、小売事業者の課題解決です。既存顧客の「ファン化」を目指していきます。現在の少子化や大手M&Aなどの厳しい環境において、小売にとって新規顧客獲得は難しい状況です。店頭のデジタル化で他社との差別化を図りつつ、小売アプリやネットスーパーで顧客を囲い込めるネットワークを共に作っていきたいと考えています。

同時に解決していきたいのは、メーカーにとっての広告最適化です。購買データとの連携が進めば広告効果の可視化が実現します。それによって新しいマーケティングの道筋が作れると思っています。

そして最終的に、ユーザーの購買体験のアップデートを実現していきたいですね。『DELISH KITCHEN』内の視聴傾向や調理データなどに購買データを結びつけることで、「食の嗜好傾向」「何を買った」「何を調理した」から「いま冷蔵庫にあるものは何か」ということろまでを推測して、食生活の体験をこれまでにないパーソナルなレベルでアップデートさせることができます。こうした1to1のソリューションを小売が提供できるようになることで、買い物や料理を便利で楽しいものにしていきたいと考えています。

ーそれでは最後に就活生の皆さんにメッセージをお願いします!

鵜飼:「DELISH KITCHEN」はレシピ動画メディアとしてスタートして約8年間の取り組みがあって、社会構造を変えるような新たな挑戦ができる環境にいます。同じような存在は業界にもなく、唯一無二のポジションであると認識しています。「DELISH KITCHEN」第二創業期は、今まさに始まったばかりです。

先に述べましたが、エブリーには固有のビジネスモデルにこだわらずに、市場やユーザー・クライアントの課題に向き合ってそのための本質的な課題解決をするカルチャーがあります。本当に必要であれば、絵に描いた餅にすることはなく、これまでやってこなかったジャンルにもチャレンジしていく姿勢があると思います。ここから5年10年かけてドライブし続けて社会構造を変えるようなインパクトを生み出したい、という野望がある方がいたら、ぜひ一緒にやっていきましょう。


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