〜茶をめぐる情勢 茶産業を守っていく〜農林水産省 皿谷様による社内講演会を実施しました。

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日本での茶産業の歴史は古く、伝統的で高品質なお茶は、国内外の人々に親しまれています。しかし近年の様々な環境の変化により、茶農家にとって大きな収入源である一番茶の価格は低下傾向にあり、農業経営にも影響を及ぼしています。
日本が誇る茶産業を、私たちはどうやって守っていくことができるのか。農林水産省の皿谷様をお迎えして考えました。

皿谷 俊祐 様
農林水産省 農産局 果樹・茶グループ
課長補佐(茶業班担当)


リーフ茶の需要減少の一方で、ペットボトル茶や海外からの需要が高まる

皿谷:お茶は生葉の収穫後、産地で荒茶に加工され、消費地において製茶にブレンドして販売されます。お茶農家さんが加工を行う荒茶段階では、現在770億円の産業規模ですが、主にリーフ茶向けの一番茶の需要が停滞しており、産出額は減少傾向です。

また、主要産地は栽培面積、荒茶生産量ともに多い順から静岡県、鹿児島県、三重県、京都府、福岡県で、上位3県が全国の栽培面積の約7割を占めています。
お茶の生産量は約75,000トンで推移しており、茶期別生産量では、近年主にリーフ茶向けの一番茶の生産量は減少していますが、ドリンク等向けの安価な三番茶や四番茶・秋冬番茶の生産は比較的堅調です。また、海外で抹茶の需要が高まっていることもあり、抹茶の原料となるてん茶の生産は増加傾向にあります。

皿谷:消費者による緑茶の購入は、平成11年では茶専門店を含む一般小売店からが最も多かったのですが、その後スーパーからの購入等が増加しました。近年では通信販売の割合も増加しており、購入元も販売店、茶商、生産者など多様化しています。

輸入量は平成16年に緑茶飲料向けとして急増しましたが、その後、緑茶飲料用原料の国産割合が高まったことから輸入量は減少し、近年は3〜4千トンで推移しています。米国等における日本食ブームの影響や健康志向の高まり等を背景に、抹茶を含む粉末茶の需要が拡大し、輸出量はこの10年間で約2.5倍強に増加しています。令和5年の緑茶の輸出額は292億円と過去最高額となりました。輸出先国としては、米国が全体輸出量の約39%を占めています。
茶の主な輸出先である米国・EU等では、お茶の栽培がほとんど行われていないため、日本国内でお茶に適用のある農薬成分の残留農薬基準値(MRLs)が設定されていないケースが多く、輸出にあたっての障壁となっています。

スマート農業の推進で、持続可能な茶産業を支援

皿谷:年齢別基幹的農業従事者数は年々減少するとともに、平成12年には51%であった65歳以上の割合が、令和2年には61%と高齢化が進んでいます。それに対して、機械化が困難である傾斜地では面積当たり労働時間が平坦地と比較して長く、特に摘採時期の労働負荷が大きいので、早生、晩生の品種導入により摘採期の分散を図る地域も見られます。

皿谷:原油価格高騰の長期化や化学肥料原料の輸入価格の高騰にも大きな打撃を受けています。
また、全国の茶園の約4割が中山間地に位置し、傾斜等の要因により乗用型機械の導入が遅れている地域も存在しています。
茶園の約4割が、樹齢30年以上と老園化し、収量、品質の低下が懸念されていますが、改植等への支援の実施面積は全体の1割程度となっています。

こうした状況を踏まえて、農林水産省では、生産体制の強化や需要の創出に向けた様々な支援を行っています。まずは、生産力強化に向けた、スマート農業技術を生産現場に導入・実証するスマート農業実証プロジェクトにおいて、茶については、静岡県、京都府、長崎県及び鹿児島県の5地区6課題の実証を実施しています。

また、産地の特色を活かして持続可能性を高めるため、茶・薬用作物等地域特産作物体制強化促進により専門家等多様な人材を取り込み、地域の茶業振興につながるモデル的な取り組みを支援しています。

多面的なお茶の魅力を発信し、茶産業を守っていく

皿谷:お茶の消費拡大を図るため、茶業界と一体となって情報発信を行う「日本茶と暮らそうプロジェクト」を令和3年から開始しました。プロジェクトの一環として、新たに「お茶の可能性は無限!~お茶×(かける)キャンペーン」を令和6年4月から開始し、茶産地や事業者の皆様と連携し、日本茶に関する多様な楽しみ方や日本茶の新たな可能性について情報発信を行っています。

また、お茶の需要拡大に向けては、お茶の健康効果や機能性の普及も重要であるため、農林水産省では、ウェブサイトやSNSで発信するほか、民間団体が行うお茶の機能性成分に関する様々な研究成果をまとめた冊子の作成・公表等も支援しています。
美味しいだけでなく、様々な機能性成分も期待される茶の魅力を多くの方に知っていただいて、日本の誇る茶産業を永続的に守っていきたいと考えています。

おわりに

講演後のアンケートでは多くの声が寄せられましたので、一部をご紹介いたします。

・お茶は海外で需要が高く日本を代表する作物である、というお話はとても嬉しく拝聴しました!お米と同じようにお茶を国内生産しているのが当たり前になっていて、国内ではニーズが鈍ってきているのかなと感じるのですが、守っていきたい食文化だなと改めて思いました。
・生活の中に当たり前にあったお茶というものが、若年層のお茶離れや生産農家の高齢化などの問題を抱えていることに気付かされ、改めて意識して消費していく必要があると感じました。
・お茶に関わる皆様が、課題を明確にして一つ一つの施策に誠実に取り組まれているように思い、とても感動しました。今後はつくり手不足が最大の課題になるように思います。個人的には、老後や子育てが終わったタイミングで農業に興味を持つ人が一定数いると思うので、その方々が低リスクでチャレンジできるような仕組みが出来ると良いなと思いました。

皿谷様、貴重なお話ありがとうございました!
日本の伝統的な産業を、私たち一人一人がどう行動して守っていくか、考えるきっかけとなりました。

今後も、ユーザーの暮らしの半歩先を見据えたサービス開発・改善に取り組むために、多様な価値観に触れる機会を提供し、組織開発や社員ひとりひとりのキャリア・成長支援に努めてまいります。

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